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75 新会社法と事業承継

平成18年5月に施行予定の新会社法において、これまでは商法、有限会社法などいくつかの法律に分散されていた会社に関する規定が一本化されます。これに伴い、規定そのものも実質的に大幅に改正されます。特に中小企業に関連する改正は、機関設計の柔軟化、会計参与制度の導入、有限会社制度の廃止、株式制度の拡充、最低資本金制度の撤廃等多岐にわたっています。

今回はこれらの改正事項の中から、株式制度の拡充により事業承継の場面で活用できる改正事項と留意が必要となる事項について取上げます。

1.活用できる改正事項

<議決権制限株式の活用>

株式譲渡制限会社において議決権制限株式の発行限度枠が旧商法等では発行済株式総数の2分の1以下であったものが、新会社法では発行限度枠制限がなくなります。この改正によって、事業承継者以外の者の相続予定株式については議決権制限株式とすることにより事業承継者の経営権の確保を図ることが可能となります。

オーナーの相続開始によりオーナー所有株式を事業承継者以外の相続人も承継することが予想される場合には、株式分散による議決権の拡散を防止するための手法として、議決権制限株式への変更が有効です。

<売渡請求権の活用>

旧商法等では譲渡制限がある株式であっても相続等により会社にとって好ましくない者に株式が分散してしまうことがありました。新会社法では、相続等により譲渡制限株式を取得した場合には定款に、会社が株式を売り渡すように請求できる旨を定めることにより、会社は相続人等に売渡請求をすることができるようになります。この制度を活用することにより株式の分散を阻止することが可能となります。

<機動的な自己株式の取得>

旧商法等では、自己株式の取得の決議は定時株主総会に限定されていたため、相続税納付期限と定時株主総会のタイミングの関係で機動的対応は困難でした。新会社法では臨時株主総会でも自己株式取得の決議が可能となったことから、相続により取得した株式を会社へ譲渡して納税資金を調達する方法も納税資金確保の有効な手段の一つとなるでしょう。

2.留意が必要となる事項

<従業員持株会の導入>

オーナーからみると、会社に対する経営権をキープしながら、所有株式を持株会に譲渡することにより株式数を減少させることができ、また、従業員からみると、会社の株主となることで参画意織が高まり、将来株式公開を計画している場合には財産形成にも役立つことから、近年、この制度を導入する会社が増えていました。

ところが改正により、従業員持株会でも一定の要件をみたしている場合には、少数株主権が認められ、帳簿閲覧請求権や取締役解任請求権の行使が可能となることから、労使間にトラブルが発生した場合にはこの少数株主権により、帳簿閲覧請求権等が行使される可能性がでてきます。

オーナーからすれば、経営権に影響を及ぼさずに所有株式数を減少されることが可能となるメリットがある反面、従業員持株会との関係によってはトラブルを大きくすることも予想されるため、導入にあたっては留意が必要です。