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60 相続時精算課税とその活用

平成15年度の税制改正により創設された相続時精算課税制度(以下「新規定」という)は、相続と贈与の一体化を前提とした新しい課税制度です。

新規定は政府の「高齢者の保有する資産を早い時期に次世代へ移転すること」を主な目的として創設されました。
「親から子への贈与が 2,500 万円までなら無税で実行できる。」
「子が住宅を取得するための資金であれば 3,500 万円までの贈与が無税でできる。」
等々、創設当初は、マスコミ等でも広く取り上げられたことから施行されて間がない規定とはいえ、一般に周知度が高い規定の一つです。

しかし専門家の間では、
「相続税対策の一環として税金の軽減を意図するのであれば、新規定の適用では税効果は期待できないのではないか」
「将来の予測が困難な現状で、適用を受けることはリスクが高い」
等、新規定の適用に当たっては消極的な意見が多かったのも事実です。

実際の申告の状況はどうだったのでしょう?
平成16年3月、最初の申告が終わって、新規定の適用実態は?・・・以下の通りです。

相続時精算課税適用者
約 78,000 人
うち住宅資金贈与を受けた者
約 26,000 人
うち税額があった者
約 4,000 人

約95%の人が贈与税の負担なく、何らかの財産の贈与を受けたことになります。裏返せば、5%の人は 2,500 万円(住宅取得資金は 3,500 万円)を越える財産の贈与を受けたことが窺えます。新規定の適用を受けない場合、取得財産の課税価格が 1,000 万円以上となると50%の贈与税が課税されます。このため、多額の財産の贈与をしたくても二の足を踏んでいたようなケースにおいて新規定の適用は、検討する価値が充分にあったものと思われます。

「多額の財産の贈与ケース」とは次のようなケースが考えられます。

事業承継の一環として同族会社の株式を後継者へ贈与する。
所得の分散を目的とした相続対策として賃貸用不動産を相続人へ贈与する。

これらのケースは、新規定の有効活用として当初から専門誌等でも取り上げられてきました。ところが実際には、事業承継や税負担軽減対策のほかの目的で活用されている場面も多いようです。

ここで、将来の相続人の争いを軽減させることを第一の目的として新規定を適用した事例をご紹介します。

事例紹介

贈与者の次のような強い希望により、新規定の適用を受けて賃貸用不動産を長女へ贈与しました。

将来、自分(=贈与者。夫は先に死亡。推定相続人は長男、次男、長女。)に相続が発生した場合には、長男・次男と長女との間で遺産分割協議の成立は困難であることが予想される。長女に不利な分割となるであろう。
遺言書は作成するが、それだけでは不十分と考える。自分が死亡後、未婚で自分の介護をするため無職となった長女の生活の糧として賃貸用不動産を、自分の意志で生前に長女に贈与したい。
自分が元気なうちに、長女の生計の基礎を見届けたい。将来、相続税の負担が多くなったとしても、今、賃貸用不動産を贈与して、安心したい。

上記のように新規定は、相続人間でのトラブル回避策の1つとしても活用されているようです。今後も、さまざまな場面での活用が予想されます。生前贈与は、人間関係の円滑化にもつながります。
争続対策のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか?