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43 相続時精算課税制度のからくり

相続税・贈与税制度に新しく設けられた相続時精算課税制度は、20 歳以上の子が 65 歳以上の親からの生前贈与について、2,500 万円まで贈与税が非課税となるものです。この年齢は、贈与があった年の 1 月 1 日時点で判定されるので、平成 15 年 1 月 1 日に 65 歳以上である親は昭和 13 年 1 月 2 日以前の生まれであること、子は昭和 58 年 1 月 2 日以前の生まれであれば年齢条件をクリアすることになります。

なぜ、この制度は、贈与者である親の年齢は 65 歳以上であること、とする条件を設けたのでしょうか。そのくらいの親世代は、若い世代に比べて多額の資産があるということが理由のひとつではありますが、それだけではないようです。65 歳以上としたのには、日本人の平均余命も関係しているようです。

相続時精算課税制度を選択した親からは、その後、相続が起こるまで制度の適用を受け続けることになります。いったん選択したら、年 110 万円が非課税となる基礎控除の方を使うことも、110 万円基礎控除に変更することもできません。基礎控除以下の少額の贈与であっても、贈与があれば毎年、相続の時まで贈与税の申告が必要になります。

つまり、65 歳以上の親に相続が起こるまでの間、税務署は精算課税制度を選択した納税者の贈与税申告をずっと管理し続けなければならないわけです。平均余命を男女とも 85 歳位とすれば、それまでの年数、少なくとも 20 年間くらいの間は納税者を把握していなければ、相続時に生前贈与分と併せて精算し、相続税を課税するといったことはできないからです。

昭和 50 年にできた制度で、農地を相続した農業相続人が 20 年間農業を継続すれば、納税猶予された相続税が免除されるという特例がありました。税務署は、この制度をこれまで運用してきた実績があるので、20 年くだいの納税者管理は実務的にも問題なく対応できるということもあるようです。

もっとも、生前贈与を行いやすくすることが目的の制度ですから、年齢制限を 65 歳ではなくて 70 歳、75 歳以上などとしたら、制度の趣旨を損なうことになります。親が 75 歳を越えていれば、子は 40 歳代の後半から 50 歳代にもなるわけで、住宅取得資金や教育資金などを最も必要とする時期は過ぎてしまっていて、せっかくの財産が活かされない、景気にも貢献しないということになります。

相続時精算課税制度は、生前の贈与でも相続でも、両者の税負担に差が生じないように考えられて設計された制度です。2,500 万円という非課税枠も、相続人が妻と子 2 人という平均的な場合に、相続税の基礎控除が 8,000 万円( 5,000 万円 + 1,000 万円 X 3 )で、相続人の1人あたりの基礎控除額は 8,000 万円の約3分の1の 2,500 万円になることからもきているとも言われています。財産が多額にある場合などでは、かえってデメリットが生じる可能性もあるというのも、こうした制度設計によるものといえるでしょう。