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30 詐欺による損失は雑損控除の対象外

所得税では、災害などで家財に損失があった場合に受けることができる「雑損控除」の対象になる損失の原因を「災害」「盗難」「横領」の3つに限定しています。つまり、この3つ以外の損害は、所得税法上何ら救済はされないということなのです。

不動産売買の仲介者に渡した小切手を不法に領得されたことによって生じた損失が、雑損控除の対象になる「横領」に該当するかについて争われた事例がありました。税務署側が、横領ではなく詐欺による損失である、として雑損控除の適用を認めなかったからです。

[ 事件のあらまし ]

相続税の納税資金に悩んでいたAさん(農業)は、以前に土地売却の仲介を依頼したことがある人物から、B社融資部主任の名を騙るCを紹介されました。Cは「当社の親会社が土地を欲しがっている」といって、Aさんに土地売却のあっせんを申し出てきました。

そして、Cは、

親会社ではAさんの土地を相場より高く買うといっている。その資金を銀行から出させるために、形式上、土地に親会社を債権者とする抵当権を設定したことにする必要がある

抵当権は便宜上のものなのですぐに抹消する

土地の売買代金の一部は抵当設定登記の時に親会社から受け取るが、 それを親会社への返済に支払ったと見せて、その金はこちらで預かる

後日売買契約をして中間金名目で代金を受け取れば相続税は納税できる

などと持ちかけ(後の裁判ですべて嘘であることが判明)、借金をするつもりの ないAさんに親会社からの融資を受けさせたのです。

Aさん側はやむなく融資を承諾し、Cの親会社から小切手を受け取りました。 しかし、もともと土地を売却するつもりだったこと、根抵当権の極度額が高額であったことから、 小切手を返却することにしました。その返却をCに委託したのですが、Cはこれを着服横領 (1億5,000万円)してしまったわけです。

詐欺イメージイラスト Aさんは、小切手をCに渡したのは返却するために預けたものであるから、 Cの欺もう行為により渡したのではないこと、Cが用いた虚言は横領を行うためのものであると 主張しました。「詐欺ではなく横領による損失である」として雑損控除を適用した更正の請求を 行ったのです。

しかし、税務署も国税不服審判所もこれを認めませんでした。Cの行為は、 虚偽の話を持ちかけて不動産を担保に提供させ、その不動産を担保に受けさせた融資金を騙し取る 「詐欺」である、と断定されたのです。AさんがCの虚言を誤信したもので、小切手を渡したのは Aさん自身の意志であったというわけです。

ちなみに、 雑損控除の対象となる「横領」には詐欺や恐喝によるものも 含まないとされています。