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111 決算日後に検討すべき税務対策

決算税務対策には決算日以前に検討・実行しておくべきことと、決算日より後に検討・処理すべきことの二つのタイミングがあります。昨今の世界的な金融不安や株価の下落、為替の大幅な変動等の影響で、以前にも増して決算日より後の税務対策の検討が重要になってきています。今回はその検討すべき事項を確認していきましょう。

1.有価証券評価損の検討

上場有価証券についてはその価額が著しく低価した場合、それ以外の有価証券については、有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低価した場合には、有価証券評価損を税務上損金算入することができるため、保有している有価証券の決算期末時点の価額を確認し、評価損の計上を検討する必要があります。

〈検討ポイント〉
価額が著しく低価した場合とは、その事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額の概ね50%相当額下回ることとなり、かつ、過去の市場価額の推移、発行法人の業況等を踏まえ、近い将来その価額の回復が見込まれない状態をいいます。

2.外貨建債権債務の換算方法の検討

税務上認められる外貨建債権債務の換算方法には、発生時換算法と期末時換算法があります。特に選択届出をしていない場合の法定換算方法は、短期外貨建債権債務は期末時換算法、長期外貨建債権債務は発生時換算法となります。換算方法について届出方法や法定換算方法を変更する場合は、変更後の換算方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに変更届出をする必要があるため、決算日が過ぎてしまった後ではその決算日にかかる外貨建債権債務の換算方法の変更はできません。しかし、為替相場の著しい変動があった場合には発生時換算法を選択している外貨建債権債務についても期末時換算法によって換算をすることができるため、決算に際し検討する必要があります。

〈検討ポイント〉
発生時換算法を選択している場合に、為替相場が著しく変動(概ね15%以上)した時は、期末日レートによる換算のし直しが認められています。

3.貸倒損失の検討

売掛金や貸付金等の金銭債権が回収不能であると判断される時は、貸倒損失として損金に算入することの検討を要します。税務上の貸倒損失は法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ、売掛債権の特例の3つに区分されますが、決算日が過ぎてしまった後では、事実上の貸倒れと売掛債権の特例について検討する必要があります。
(1)事実上の貸倒れ
その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができます。

〈検討ポイント〉
その金銭債権に担保物がある場合には、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理することができず、連帯保証人等の人的保証も担保物とみなして回収不能の判断をする必要があります。

(2)売掛債権の特例
債務者との取引を停止した時以後1年以上を経過した場合、同一地域の債務者について有する売掛債権の総額がその取立てのために要する費用に満たない場合で支払督促をしても弁済がない場合には、原則として売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理することができます。

〈検討ポイント〉
この特例の対象となる売掛債権は継続的な取引を行っていた債務者に対するものだけであり、貸付金は含みません。