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現行の法人税の規定では、保有している各種資産の評価損益の計上は原則として不可としつつ、特定のケースにつき例外的に認めるかたちが採られています。株式についてもこれは同様で、単なる相場の変動による価格の下落では、評価損の計上は認められません。
そこで、以前から流布していた手法が“クロス取引”による損出しです。これは、持っている株式をいったん時価で売却し、その後同一数を直ちに買い戻すというもの。簿価よりも値下がりしていれば「売却損」が実現し、当期の所得計算のマイナス要素として機能するわけです。 税務の執行も、関係者間で行った相対取引などは、取引そのものを「否認」してきましたが、上場株式を市場を通じて売却し買い戻すのであれば、これを容認してきた経緯がありました。 |
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この点に関し、このほど国税庁は法人税基本通達に新しい項目を盛り込み、いわゆるクロス取引については、例え市場を通じたものであっても、税務上は取引そのものが「なかったもの」とみなす取扱いを定めました。つまり、今後は、クロス取引による損益は、課税所得計算に一切反映されないことになります。
国税庁では、この取扱いは「平成12年4月1日以降開始する事業年度」から適用されるとしています。従って、例えば、3月決算法人が、この4月以降行った(あるいはこれから行う)クロス取引が、規制の対象となるわけです。 ただし、短期的な売買目的で保有すると認められる上場銘柄については、売却後ただちに買い戻しが行われていても、その損益は所得計算に織り込まれます(=市場を通じたクロス取引を引き続き容認)。なお、保有する上場株式が「売買目的」に該当するか否かについては、各種要件が付されていますのでご留意ください。 |
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一方で、個人が市場を通じて行う株式のクロス取引については、税務(所得税)上、その取引は有効とされます。
例えば、以前、50で買った株式を100で売却し源泉分離課税を適用、その後同じく100で買い戻せば、その株式の簿価は100に付け変わります。売った時点では、源泉分離課税により売却価格の1.05%を納税することになりますが、将来、源泉分離課税が廃止され、申告分離課税に一本化された場合、売却価格から差し引く譲渡原価となる簿価は、本来の50に対し倍の100となります。源泉分離による納税額をいったん負担しても、将来の税負担の軽減効果がこれを上回れば、クロス取引による簿価の付け替えのメリットは大きいといえます。 ただし、源泉分離課税は、今のところ、来年3月末までの廃止が既に法改正により“決定”していますが、ここにきて政府・与党内で「廃止の先送り」を求める声が濃厚となってきました。正式にはこの12月半ば頃にとりまとめられる「自由民主党・平成13年度税制改正大網」で、既定方針どおり3月末で廃止か、又は廃止時期を先送りするかが明らかになります。 |